信頼と品質を武器に。人口動態と自由貿易都市ドバイが拓く次世代ビジネスの可能性

伊藤忠商事 中近東総支配人 大塚健司。1993年、伊藤忠商事入社。発電、オイル&ガス、インフラ分野で数多くの大型プロジェクトを手がけ、事業開発と案件推進の両面で実績を重ねてきた。イラン5年、ヨルダン3年、現在ドバイ駐在5年目と、累計12年以上にわたり中東で現場に根差した経験を培う地域スペシャリスト。2021年より伊藤忠商事の中近東総支配人として域内戦略を統括し、大型プロジェクトの推進に注力。2025年、ドバイ日本商工会議所の会頭に就任

Desert Icons Vol. 16 伊藤忠商事 中近東総支配人 大塚健司。砂漠の都市からグローバルハブへの進化。ドバイの発展を牽引するキーパーソンに迫り、彼らの革新と成功の秘密を探求する。

中東ビジネスの最前線から見た課題と希望

--ドバイ商工会議所の会頭として、日系企業を欧米や中国企業と比べた場合、課題と強みについてどうお考えですか?
大塚 日系企業とそれらの国の企業では、マーケットへのアプローチが根本的に異なります。欧米企業はM&A戦略に長けており、マルチナショナル型企業として現地に根差した経営を実行してきました。彼らは現地での人材登用や買収を通じて、地場マネジメントも含めた経営を展開しています。

それに対して、日系企業の多くは今でもインターナショナル型です。つまり、意思決定もマネジメントも本社主導であり、現地のトップが日本人というケースが多い。こうした構造が、いわゆる“地場化の遅れ”につながり、結果としてダイナミズムに欠ける印象を与えてしまいます。中国企業は、価格競争力とスピード感を武器にどんどん製品を投入してきています。彼らは米国市場で制限を受けた結果、東南アジアや中東、アフリカにビジネスをシフトさせ、今後もその影響力は拡大していくと見られます。

カナデビア イノバ社などとのコンソーシアムで受注したドバイの廃棄物処理発電施設。焼却時に発生する熱を利用し発電を行い、化石燃料に頼ることのない電力供給が可能

--方で日系企業の強みとは?
大塚 「信頼感」と「品質」です。特に自動車や家電といった耐久消費財においては、「壊れない」といった安心感が今でも大きな価値とされています。これらの強みを軸に、いかに現地とのパートナーシップを深め、ビジネスモデルをアップデートできるかが今後の鍵になると感じています。

--ドバイが“ゲートウェイ”として担う機能に注目が集まっています。
大塚 地理的な位置に加えて、航空・海運インフラの整備が進んでおり、ドバイは“実用的なハブ”として非常に優れたポジションにあります。航空の直行便ネットワークはアフリカ・アジアのほぼ全域をカバーしており、アフリカ各国へのアクセスの良さはヨハネスブルグよりも上かもしれません。

--今後10年を見据えて、注目している成長分野はありますか?
大塚  10年スパンで見ると、やはり“人口動態”がカギになると思います。特にアジア、アフリカ、中東からの優秀な人材が集まりつつある現在、非常にダイナミックな変化が起きています。ドバイはシンガポールや香港の発展を参考にしながら、“自由な貿易都市”として独自の進化を遂げてきました。柔軟性があるからこそ、今後の都市としての成熟にも期待が持てますし、IT、教育、不動産、物流など、幅広い分野でビジネス機会が拡がっていくでしょう。

エネルギーと産業の未来をつなぐ伊藤忠の中東戦略

--御社が注力しているエネルギー関連事業について、詳しく教えていただけますか?
大塚 伊藤忠として中東全体で見た場合、エネルギーは非常に大きな事業です。とくにオマーンとカタールにおける液化天然ガス(LNG)プロジェクトへの投資が大きな柱。両国のLNG施設に我々は権益を保有し、その配当収入は安定しています。また、イラクに関しては、ウエストクルナ1という可採埋蔵量が200億バレル超と推定される世界最大規模の大型油田の上流権益を19.6%保有しています。

--現地製造業との取り組みも教えてください。
大塚 現地製造業との取り組みは、実は40年以上前から手がけており、その一例がドバイのジュベル・アリ地区にあるアルミ工場。ここで製造されたアルミ製品の約20%を日本向けに輸出し、その成長を助けてきました。

伊藤忠は現在、中東地域で全9拠点を有し、ドバイオフィスは中東地域のヘッドクォーター的な位置づけ。約60人体制で事業を運営している

--他分野も幅広く取り組んでいるようですね?
大塚 自動車関連ではマツダ車の現地販売支援を行っていますし、中古スマートフォンの流通、さらには鶏の飼料向けの栄養添加剤の販売などもしています。

--今後、中東で注力していきたい領域は?
大塚 インフラ分野、サーキュラーエコノミーに寄与するごみ焼却発電事業や、最近では低炭素社会に向けた還元鉄などの新素材関連プロジェクトが重要視されています。数千億円規模の投資案件も想定され、環境対応と産業の持続性の両立を図る取り組みを考えています。

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