ドバイで咲く書道の美。翠峰が感じるアラビア文化、日本文化の可能性

翠峰(書道家)。元黎明書道会準師範。幼少より祖母に書道を学び、書道教室を営む家庭で育つ。顧問の「あかふじ米」の文字を手がけた樋口尾山顧問の協会を家族、親戚一同師事。2022年に活動拠点をUAEに移す。アブダビのアニメイベント「Animena」のロゴデザイン、シャルジャの子どもセンターでの書道指導、資生堂150周年記念イベントやレクサス、日産などのVIPイベント、カンヌ国際映画祭での招待状の揮毫など幅広く活動。国際的なイベントや企業と協力しながら、日本と世界をつなぐ文化の架け橋として活躍中。書道を芸術と文化の融合として捉え、日本文化の心と美しさを世界の人々に届けている。

Desert Icons Vol. 15 翠峰(書道家)。砂漠の都市からグローバルハブへの進化。ドバイの発展を牽引するキーパーソンに迫り、彼らの革新と成功の秘密を探求する。

ドバイから世界へ、日本の書の美と心を届ける挑戦

--ドバイに拠点を移された理由を聞かせてください。
翠峰 主人の都合も一つのきっかけでしたが、私自身が国際的な文化が交わるこの地に大きな魅力を感じました。UAEは多様な宗教、言語、文化が共存する場所であり、日本の伝統文化、特に書道が持つ精神性や美しさをより広く、深く伝える可能性があると感じました。

--初めてドバイで作品やパフォーマンスを発表したときの印象は?
翠峰 最初に作品を発表した際、多くの方々が日本の書に宿る静けさや「間(ま)」、余白の美しさに感動してくださいました。特に、線の一本一本に込める想いや精神性に興味を持っていただけたことは、私にとっても大きな励みになりました。

中東初の日産自動車の海外向け高級車ブランドの"インフィニティ”の発表会。車名にかけた”無限”を揮毫した

--UAEの人々は書道や日本文化にどんな関心を示していますか?
翠峰 非常に強い関心を示してくださいます。書道が表現する「静と動」、一筆一筆に込められた心や祈りに深く共感してくれる方が多いです。手仕事の丁寧さ、自然素材の持つ美しさ、筆の動きの中に見える精神性を大切に見つめてくれます。

--アラビア文化と日本文化の共鳴や意外な共通点を感じたことは?
翠峰 アラビア書道と日本の書道、どちらも線に魂を宿し、美を託すという点で深く通じ合うものがあります。線の美しさ、文字の中に込める精神性は、国や文化を超えて共鳴していると強く感じます。また、相手を敬う心やおもてなしの精神という部分でも、大切にしている価値観に共通性があります。特にアラビア語の名前には意味や響きの美しさがあり、当て字を書く際にはその詩的なロマンを意識しています。

--現地での具体的な活動例について教えてください。
翠峰 レクサスのイベントでは、約4日間で200~300人の従業員に書道の基本を教え、名入れパフォーマンスを行いました。日産では従業員一人ひとりに名前を書き、落款を押し、その場で作品をプレゼント。また、資生堂、トヨタ、ASICSなどの企業イベントでは、VIP向けの扇子やノート、有田焼への名入れも手がけました。

日本の伝統と異文化の架け橋に。書道家が語る創作の工夫

--素材や道具選びに対するこだわりについて教えてください。
翠峰 奈良・錦光園の墨の香り、和紙の手触り、筆の柔らかさやコシ、すべてがインスピレーションの源です。和紙の「にじみ」や「かすれ」は偶然の産物ではなく、作品そのものの一部です。現地では紀伊国屋やダイソーで簡易的な道具を揃えることも可能ですが、本格的なものは日本の職人に特注して用意しています。

--ドバイで活動する中で自身の表現や創作に変化はありましたか?
翠峰 間違いなくあります。多文化、多宗教、多言語の中で創作することで、「日本的なものとは何か」をより深く考えるようになりました。アクリル板や銅板、着物の布地など、異素材との融合にも挑戦し、表現の幅が広がりました。ドバイという場所は、私にとって新しい視点を与えてくれる学びの場です。

ダウンタウンの高級和食店・KEN by Kamatsudaにて、金銀糸の打掛、透明なガラス、ガラスに揮毫することで、過去・現在・未来の三層時空間が重なるアートインスタレーションを表現した

--今後の目標や展望についてお聞かせください。
翠峰 書道教室とアートパフォーマンスを明確に分け、それぞれの特性をさらに深めていきたいです。教室では日本の伝統を大切にし、パフォーマンスでは自由な表現を追求したい。また、日本とUAEのアーティストによるコラボレーションや子ども向けワークショップを通じ、未来を担う世代に書の精神を伝える活動を積極的に進めていきたいと考えています。文化の橋渡し役として、書を通じた新たな交流の形を創り続けていきたいですね。

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