日本国政府代表 中東和平担当特使 上村司(前編)「UAEは中東湾岸諸国の中でも屈指の影響力を持つ国」
Executive Dialogue Vol. 10 日本国政府代表 中東和平担当特使 上村司氏。Gates Dubai代表の永杉がUAE・日本の第一線で活躍するリーダーと対談し、ドバイをはじめとするUAEの実相に迫ります。

多極化が進む世界における新たな問題解決の形とは
永杉:今回は、日本政府代表中東和平担当特使である上村司さんにお話をうかがいます。上村さんは以前、外務省に務められていて長年中東地域でのキャリアを積み重ねてこられました。まずは、上村さんがUAEという国に対してどのような印象を持たれているかを教えてください。
上村:中東湾岸諸国の中でも、屈指の影響力を持つ国だという印象です。単に経済的に豊かであるだけでなく、穏健で寛容、多様性を重視する国であるということがUAEの存在感を高めていると言えます。一般的にはイスラームに対して、不寛容な側面があるとの印象を持っている方もいらっしゃるかも知れません。しかし、UAEにはそうしたイメージはありません。
その象徴が近年アブダビにできた「アブラハムファミリーハウス」でしょう。この施設は、イスラーム、キリスト、ユダヤそれぞれの礼拝所を有する建物で、その他の宗教も含めて各宗教の理解促進のために建てられたもの。混乱の続く中東地域において、このようなことができるUAEには本当に力量があると感じます。
永杉:上村さんは現在、日本政府代表中東和平担当特使として活動されています。このインタビューの前日、ガザにおける停戦合意が発表されましたが、今なお予断を許さない状況と言えるでしょう。2023年から始まった今回のガザ危機についてどのように見ていますか。

上村:今回のガザ危機は人類史上のきわめて悲惨な事態ですが、国際政治史の上では注目すべき点があります。第二次大戦以降の過去80年間、世界ではこのような危機が何度も起こっていますが、以前は沈静化までの決まった道筋がいくつか存在していました。例えば1990年以前は、超大国の米ソが歩み寄り、安保理決議で問題を収めるといった道筋。
しかし、現在は多極化が進み、こうした道筋は途絶えてしまった。ロシアの力は低下し、拒否権を持つ5つの常任理事国間の利害調整が難しくなり、停戦などの重大な局面で安保理は難しい対応を迫られています。すると、今回はエジプト、ヨルダン、サウジアラビア、カタール、そしてUAEの周辺アラブ5ヵ国が「域内の問題だから自分たちで何とかしよう」という動きに出た。これは、多極化の進む世界の中の中東地域での一つの明るい兆しであると言えるでしょう。
UAEは中東地域の安定に向け政治経済両面の貢献ができる
永杉:中東地域安定のために、特にUAEにはどのような役割を期待しますか。
上村:中東にはアラブ、ペルシャ、トルコ、そしてユダヤとさまざまな民族と価値観が存在します。これらを包摂した安定的なシステムを作れるかが、中東における一番の課題。UAEには、先に述べた寛容さをもって、地域をまとめる働きを期待しています。さらに、経済的な貢献も可能性を感じています。
私は中東和平問題を長年担当していますが、一つの哲学のようなものを持っています。それは「経済的格差、社会的格差のある地域が隣同士に存在する場合、そこに平和は訪れない」ということ。ヨルダン川西岸やガザ地区はまさにそれに当てはまります。両地域のあらゆる格差を埋めることは、平和に向けた欠かせない取り組みだと言えます。
そのためには、持続できる産業を興す必要があります。その観点から日本は何十年も前からパレスチナ支援を実施しており、格差是正の手助けをしています。例えば、西岸にあるジェリコに農産加工団地を作り、そこで作られた農産物を海外に輸出していく取り組み。このプロジェクトをより推進するために、UAE、特にドバイを通じてパレスチナ産品を広く世界に広めてもらえれば良いと考えています。ドバイは経済的なハブとして中東やアフリカ地域にも開かれていますから、こうした働きが期待できるのではないでしょうか。
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