【特集】UAE 多様性という国家基盤~世界が注目する共生モデル〜

200を超える国籍が集まり、宗教も文化も価値観も異なる人々が同じ都市で生活するUAEは、世界でも稀有な「多様性を基盤とした国家」。経済成長や社会の安定の背景には、この多様性を受け入れ、共存の仕組みを整えてきた独自の社会デザインがある。本特集では、専門家インタビューをはじめ、歴史的背景、都市や職場のリアルな現場を通して、UAEの強さを支える多様な構造を立体的に読み解く。
多様性の歴史。砂漠が育んだ国際都市への道

交易の十字路として成長を遂げる
アラブ首長国連邦(UAE)には現在、200以上の国籍の人々が暮らしている。この驚くべき多様性は、石油発見による急激な変化だけではない。実は数世紀前から、この地域はインド洋交易の重要な中継地点。ペルシャ湾の戦略的な位置が、多様な人々を惹きつけてきた歴史的背景がある。
20世紀初頭まで、真珠採取がこの地域の主要産業だった。真珠採取船の上では、アラブ人の船長、ペルシャ系の商人、インド系の資金提供者、アフリカ系の労働者が一つのチームとして業務。過酷な環境での共同作業が、異なる背景を持つ人々の絆を深める場となり、この時代に生まれた労働歌は、今もUAEの伝統芸能として大切に受け継がれている。
19世紀後半、対岸のイランから多くのペルシャ系の商人(アジャム)がドバイやシャルジャに移住。彼らが建設したバスタキヤ地区のウィンドタワー(バードギール建築)は、ドバイの歴史的景観の象徴になっている。

古くからインド系商人(バニヤン)は、真珠の輸出や生活必需品の輸入を担当。金融システムが未発達だった時代、彼らの信用取引が経済の潤滑油となった。1958年、ドバイの首長がヒンドゥー教寺院の建設を許可。建国前から宗教的寛容が根付いていた証である。パキスタン・イラン国境地域出身のバローチ人は、治安維持部隊で活躍。東アフリカとの交易がもたらした音楽やダンスは「リワ」などの伝統芸能として国民的文化に昇華している。
建国と寛容の制度化

1971年の連邦結成時、シェイク・ザイード・ビン・スルターン・アール・ナヒヤーン初代大統領は「出身や背景に関わらず、すべての居住者の生活向上」を掲げられた。この理念は具体的な政策として結実する。
宗教的自由の保障:「アブラハム・ファミリー・ハウス」(イスラム教、キリスト教、ユダヤ教の礼拝施設が一つの敷地に共存)など、多様な宗教施設の建設を政府が支援。
制度的な取り組み:2016年に世界初の「寛容省」を設立。2019年を「寛容の年」と宣言し、多文化共生を国家戦略の中心に据える。
現代のUAEは、世界中から人材を受け入れるグローバルな労働市場。外国人労働者は母国の家族を支えながら、UAEのインフラ建設やサービス業の発展に貢献。この互恵的な関係が、持続可能な多様性の基盤となっている。

人口1,000万国家への軌跡〜分断の時代に示す新しい多文化社会のモデル〜
建国時の18万人から1000万人超へ。その大半を外国人が占めるUAEは、いかにして200超の国籍が共存する社会を築いたのか。湾岸諸国研究の第一人者、堀拔功二氏に分析してもらった。カギは国家理念としての「寛容」と、互いに深く干渉しない「適度な距離感」。分断が進む世界に、UAEの野心的な実験が示す未来像とは。

砂漠に生まれた奇跡:18万人から1000万人への軌跡
UAEが1971年に建国した時、この国の人口構成は既に特異なものだった。独立前の1968年で総人口はわずか18万人。しかもその時点で相当数の外国人が含まれていたという。現在1,000万人を超える人口を擁するこの国の原点について、堀拔氏はこう語る。
「国ができる中で、マンパワーが圧倒的に不足していたんです。1973年のオイルショックで石油価格が3倍、6倍に跳ね上がり、莫大な石油収入が毎日入るようになった。しかし、独立したばかりで何もない国。道路も空港も電気も、教育システムも、すべてゼロから作り上げる必要がありました」
この多国籍社会の形成は、石油ブーム以前から始まっていた歴史的な土壌があった。「20世紀半ば、それ以前から、湾岸諸国は周辺地域と活発な交流があった地域なんです。船で対岸のイランと行き来したり、アフリカや周辺のアラブ諸国と交流したりしていました」
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UAEが「外国人を受け入れる」という改革は表面的なものではなく、国家理念そのもの。2022年、歴史的な転換点が訪れる。「7月、ムハンマド・ビン・ザーイド大統領が就任後初めて行った国民向けテレビ演説で、外国人の存在について言及されました。外国人の国家建設と発展への貢献に対して明確に『ありがとう』と述べられたのです。これはUAEの外国人政策において大きな転換点になったと思います」
独特な社会モデル。イノベーションと多様性の相乗効果
UAEの共生モデルは、日本人が想像する「共生」とは大きく異なる。堀拔氏は、その本質を「適度な距離感を保った共存」と表現する。一見すると冷たく感じられるこの関係性。しかし、それが社会の安定に寄与しているという逆説的な構造を、堀拔氏はこう分析する。「フィリピン人もインド人も、自国民が職場に何十人もいて、自分たちのコミュニティの中で仕事がある程度完結できる。別にそれ以上の交流が必要なくても、自分のコミュニティに戻れば安心して暮らせる。この構造が、一見すると調和がとれた社会を作り出しているのです」

多様性がもたらすのは、社会の安定だけではない。UAEは世界中のイノベーションが集まる実験場。「ドバイは自分たちを自由な実験場として提供している」と堀拔氏は語る。「ハイパーループや空飛ぶタクシーなど、日本では簡単にできないような計画や実証実験が行われている。ドバイなら投資家も集まるし、アイディアが実現できるかもしれないと思って人が集まってくる」
文化の融合も独特の価値を生み出している。堀拔氏が紹介する興味深いエピソードがある。「調査先のインドでカレーを食べたとき、『ドバイのカレーも本場に劣らず美味しい』と思いました。ドバイのインド人コミュニティのなかでも本国と変わらない、なんなら本国より美味しいという評価もある。インドの食文化がドバイで洗練され、発展していくんですね」
世界への示唆:分断を超える可能性
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世界各国で移民排斥の動きが強まる中、UAEの姿勢は際立っている。「現在、トランプ米大統領は外国人に出て行けとトップレベルで言っている。世界中でそういう風潮がある中で、UAEはトップレベルで外国人の貢献を認め、『あなたたちは私たちの国にとって必要なのです』と示しています」
UAEモデルの本質を、堀拔氏は「包摂性と流動性」という言葉で表現する。「いろんな人が来て、住んで、働いて、生活できる。気に入れば居続けるし、合わなければ出て行けばいい。この流動性と包摂性が、UAEの魅力だと思います」。
世界が分断と対立に向かう中、UAEの実験は続いている。200を超える国籍の人々が共存するこの社会は、21世紀の多文化共生を考える上で、重要なモデルであり続けるだろう。堀拔氏は最後にこう締めくくった。「UAEは適度な距離感を保ちながらも、お互いが無用な摩擦を生まない社会を実現した。それは現実的で持続可能な一つの答えなのかもしれないですね」

一般財団法人日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究主幹。立命館大学国際関係学部卒業、在学中にUAE大学に1年間留学。2011年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了、博士号(地域研究)取得。専門はUAEを中心とする湾岸諸国の政治・社会システム、君主体制の持続性、国際労働力移動、外交戦略など。2010年より現職。2016年カタル大学客員研究員。20年以上に渡り、UAEを定点観測し、日本における湾岸諸国研究の第一人者として活動している。
職場で見える多様性~レストラン編

多国籍スタッフが働く「Maru Udon」には、国籍も宗教も異なる人々が交差する現場のリアルがある。偏りによる派閥化の苦い経験を経て、本郷氏が辿り着いたのは「互いをリスペクトする」職場づくり。ドバイならではの多様性と日常がここにある。

Q: 現在、何ヵ国の人が働いていますか?
A: 日本人の私を含めて5ヵ国の従業員が働いています。フィリピン人、スリランカ人、ミャンマー人、パキスタン人です。弊社ではフィリピン人が5割近くを占めています。その理由としては、サービス業に向いている国民性だからです。英会話力という言語能力もありますが、それ以上に接客が上手なんです。
Q: どのような方法で人材を採用していますか?
A: 基本的に既存スタッフからの紹介です。これが一番良い方法だと思っています。紹介する側も自分の信用に関わるので、適当な人は紹介してきません。
Q: フィリピン人が50%を占めることで、偏りの心配がありそうですが。
A: 以前、失敗した経験があります。フィリピン人が多くなりすぎて、徒党を組み始めたのです。その中で派閥を作り、ボスが生まれました。そのボスが権限と権力を握り、周りの関係がギクシャクし始めたことがありました。
Q: その後はどのような対策をとっていますか?
A: なるべく同じ国籍の人が固まらないように採用しています。現在、デリバリー用のキッチンを含め3店舗ありますが、意識的にバランスよく配置しています。シフトの関係でフィリピン人だけになることもありますが、なるべく英語を使って仕事をするようお願いしています。母語だけの会話となると違う国の人間には何を言っているかわからなくなりますので。
Q: UAEで最も多いインド人のスタッフはいないのですね。
A: 何回か採用しようとしたことがありますが、(宗教上の背景から)牛肉が食べられないという方が何人かいらっしゃいました。味見ができないと調理人としての採用は難しくなります。
Q: 宗教の違いによる問題はありますか?
A: この国では、キリスト教徒とイスラム教徒が争うことはありません。それがこの国の良さだと思います。唯一、緊張するのはインドとパキスタンによるクリケットの試合の時ぐらいです笑。
Q: 人種が多いことによる困りごとはありますか?
A: 残念ながら、相手をバカにし始めることがあります。その時は厳しく注意します。「お互いをリスペクトして働きなさい」と。多少厳しく言わないと、多様性のある職場は成り立ちませんので。
Q: アジア人以外の採用を考えたことがありますか?
A: ジョージア人を試しに雇用したことがありますが、続きませんでした。ロシア人とアラブ人の採用も検討しましたが、アジア人との関わり方に難しさを感じました。とはいえ、アジアだけの人材からの脱却が、弊社の課題でもあると感じています。

職場で見える多様性~オフィス編

多民族が共存するUAEで、東京海上ドバイは現地化政策に対応しつつ、国籍のバランスを意図的に設計した組織運営を進めている。宗教行事への平等な配慮、不正防止のための“たすきがけ”配置など、多様性を前提とした独自のマネジメントが成果を上げ始めている。
多民族社会で進化する組織づくり

UAEの人口構成は、11%を占めるエミラティ、約4割を占めるインド人、そしてエジプト人やパキスタン人などであり、東京海上ドバイのスタッフもほぼ同じ。ただし、エミラティの比率が24%と全体平均の倍以上。これは金融業界に課せられたエミラティゼーション(現地化政策)によるもの。2024年末までに24%を達成し、2026年末までに30%を目指す計画が進行中。

インド人、パキスタン人、フィリピン人などが大半の構成だが、このエスニックミックスは意図的に設計されたもの。特に経理部などの金銭を扱う部門では「たすきがけ」を実施。例えば、インド人の部長の下にはパキスタン人を副部長に配置し、その下にネパール人を置くなど、同一民族による不正を防ぐ工夫が施されている。




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