磯俣秋男駐UAE大使「UAEへの進出企業は、中東・アフリカへの展開も視野に入れられる」

Executive Dialogue Vol. 2 磯俣秋男 駐アラブ首長国連邦 特命全権大使。このコーナーでは、Gates of Dubai代表の永杉がUAE・日本の第一線で活躍するリーダーと対談し、ドバイをはじめとするUAEの実相に迫ります。

1962年愛知県生まれ。東京外国語大学英米語学科卒業後、外務省入省。中国・北京大学および米国・ハーバード大学大学院(東アジア研究修士)での在外研修を経て、アジア局、条約局、総合外交政策局などで勤務する。その後、在中国日本国大使館一等書記官、内閣法制局参事官、在カナダ日本国大使館公使、在上海日本国総領事などを歴任。2021年10月、駐アラブ首長国連邦特命全権大使に任命された。

石油とガスからの脱却。アブダビでも進む多角化

永杉:「Exclusive Dialogue」第2回目は、駐アラブ首長国連邦特命全権大使である磯俣秋男さんにお話をうかがいます。大使として着任されたのは2021年11月ですので、着任からおよそ2年半が経ちました。まずは、大使として過ごす中で感じたUAEに対する印象を教えてください。

磯俣:この国に来てから私が抱いた印象は、3つのキー・フレーズに集約できます。1つ目は「安全と安定」。一般的に中東の国々にはテロや紛争などのイメージが付きまといますが、UAEにそれは当てはまりません。政治的・社会的安定度が高く、街中でも安心して過ごせる治安の良さはこの国の大きな特徴です。

 2つ目は「経済の多角化とイノベーション」です。UAEは石油とガスで成り立ってきた国ですが、世界が脱炭素化に向かう中で、今後はそれだけでは発展を維持できません。UAEは革新的な先端技術やAIなどへの投資を加速させています。驚くべき速度で進む経済の多角化は、目を見張るものがあります。

 3つ目は「外国人との共生と寛容」です。UAEは人口の約9割が外国人ですから、異なる文化や宗教を背景とした人々との共生は社会的な課題です。大使として、また外国人としてこの国を見てきましたが、非常に上手く共生できていると感じています。また、その背景には、この国が推進している「寛容」という精神があると思います。

MENA地域最大の教育イベント「NAJAH EXPO」を訪問したナヒヤーン・ビン・ムバーラク・アール・ナヒヤーン寛容・共生大臣と磯俣大使

永杉:経営者としてまず気になるのが、2つ目の「経済の多角化」です。ドバイは石油資源に乏しく、1990年代には観光業などへの多角化に舵を切りました。この動きは、アブダビにも波及しているのでしょうか。

磯俣:近年は、アブダビにおける経済の多角化も急速に進んでいます。特に目覚ましい発展を遂げているのがデジタル分野、主にAIです。アブダビにあるTechnology Innovation Instituteという研究機関では、大規模言語モデル「Falcon」の開発が進んでおり、世界中で高い評価を得ています。民間ではアブダビを本拠とするAI企業「G42」がChatGPTの開発企業OpenAIと提携するなどの動きもあります。また、ムハンマド大統領の名前を冠したムハンマド・ビン・ザーイド人工知能大学も設立されており、研究とともに次世代の人材育成にも余念がありません。

 多角化で他にも注目すべきは、文化・教育への投資です。アブダビにはサディヤット島という島があるのですが、ここをアブダビの文教地区とすべく開発を進めています。例えば、2017年にオープンした「ルーブル・アブダビ」です。ここは世界で唯一となるルーブル美術館の姉妹館で、本館の収蔵品を巡回展で見ることができます。また、ニューヨークのグッゲンハイム美術館が手がける「グッゲンハイム・アブダビ」、日本のチームラボが手がける「チームラボ・フェノメナ・アブダビ」のオープンも近く予定されています。更には、ニューヨーク大学アブダビ校(NYUAD)などもサディヤット島には開設されています。

 アブダビでは他にも、ワーナーブラザース・ワールドやシー・ワールドなどのテーマパークを誘致するなど、デジタル・文化・観光・教育などへの多角化が進んでいます。

寛容の精神をもって、外国人との共生を進める

永杉:UAEに進出する企業としては、3つ目のキー・フレーズ「外国人との共生と寛容」も気になります。

磯俣 イスラムの価値観の中には「寛容」の精神があります。UAEはこの精神をもって、異なる宗教や社会慣習を持つ外国人との共生を標榜しています。これは決して口先だけではなく、2017年には内閣に「寛容・共生大臣」が新設され、共生に向けたさまざまな施策を行っています。

 数ある取り組みの中で最も注目したいのが2023年3月、アブダビにオープンした「アブラハム・ファミリー・ハウス」です。これはイスラム教・ユダヤ教・キリスト教の礼拝場を近接して設置した統合的宗教施設で、異なる宗教の人々も同じ場所で共に生きていけるのだという強いメッセージを発しています。この施設は単なるモニュメントではなく、各宗教とも日々の礼拝に使用していると聞いています。

中東やアフリカも見据えた広域的なビジネス展開を

永杉:「外国人との共生」を推し進める「安全・安定」な社会情勢。そして、「経済の多角化」によるビジネスチャンスの多様性。UAEは、海外進出を考える企業にとって魅力的に映ると思います。この国に進出している日系企業や、進出を検討している企業へのアドバイスやメッセージをお願いします。

磯俣:UAEの寛容さは外交面でも発揮されています。異なる考えを持つ国とも対話や経済交流を続け、緊張緩和を推進する外交が続いています。例えば、2020年にはイスラエルとの国交正常化を果たしていますし、地域の安全保障において脅威とされるイランとも対話と貿易は継続しています。

 このように近隣諸国と良好な関係を保ち、ビジネス環境も整っている国というのは、ビジネスの観点から言えば、この地域におけるビジネスハブ、またはゲートウェイになりうる国と位置づけられるでしょう。そのため、進出を考える日系企業の方々は、UAEでのビジネス展開のみならず、中東・アフリカへの大きな展開も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

安倍晋三元首相が亡くなった際、アブダビ国営石油会社(ADNOC)の本社ビルでは、哀悼の意を表す動画を上映。磯俣大使は「ADNOC側は非常に残念だと話していました」と振り返る

 そして、ここからはお願いなのですが、UAEに進出した日系企業の方々には、ぜひともこの国の優位性を日本の皆さんに広げていただきたいと考えています。本日お話したように、UAEは寛容、共生、対話などをベースに常に安定と発展を追求している国です。しかし、多くの日本人にとって、中東の国のイメージはひとまとめに「紛争とテロ」です。

 偏ったイメージが広がっていることは、二国間関係発展の障害となり得、日本の国益にかなうものではありません。もちろん大使館も引き続き努力していきますが、UAEに関わりを持った邦人には、ぜひとも周囲の方にUAEの魅力や素晴らしさを伝えていただく役割も担ってもらいたいと考えます。

永杉:我々が「Gates of Dubai」を運営する上で掲げているミッションが2つあります。1つは「UAEで日本のプレゼンスを高めること」。2つ目は「日本でUAEを広く知ってもらうこと」です。我々も誌面やWebを通じて、在留邦人や日本の皆さんにUAEの安全・安定や寛容さを伝える取り組みに尽力したいと考えます。本日は公務ご多忙の折、誠にありがとうございました。

学生時代に起業、米国永住権取得後、ロサンゼルス、上海、ヤンゴン、ドバイに移住し現地法人を設立。ミャンマー問題に精通した専門家として多数のテレビ番組に出演する。クーデター後のミャンマー困窮者と民主化支援のため2022年にNPO法人ミャンマー国際支援機構を安倍昭恵氏や逢沢一郎衆議院議員らとともに設立、代表理事に就任。2023年度社会貢献者表彰を受ける。

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