日本・UAE友好議員連盟会長 石破茂氏「米国に頼り切る姿勢から脱却。UAEとの関係強化が必要」
Executive Dialogue Vol. 3 日本・UAE友好議員連盟会長 / 衆議院議員 石破茂氏。このコーナーでは、Gates of Dubai代表の永杉がUAE・日本の第一線で活躍するリーダーと対談し、ドバイをはじめとするUAEの実相に迫ります。
美術、教育、そして軍事などUAEとの関係を深める欧米諸国
永杉: 今回は、衆議院議員の石破茂さんにお話を伺います。石破さんは1986年の衆議院総選挙で29歳にして初当選。以後、12回の当選を果たし、防衛大臣や自民党幹事長などの要職を歴任してこられました。現在も多くの要職を務めていらっしゃいますが、その中の一つに、日本・アラブ首長国連邦(UAE)友好議員連盟の会長という肩書も並んでいます。まずは、石破さんがUAEと関わることになったきっかけを教えてください。
石破: 私は2002年、第一次小泉政権で防衛庁長官に就任しました。当時、テロ対策特別措置法に基づいて自衛隊がインド洋に派遣されたのですが、その補給基地となっていたのが、UAEのフジャイラ首長国だったのです。長官として派遣の現場を見ておく必要がありますから、現地を視察で訪れたのがUAEとの御縁の始まりですね。
永杉: 視察の印象はいかがでしたか。
石破: フジャイラからヘリコプターに乗り、自衛隊の補給艦に着艦しました。艦上に立ったときの凄まじい暑さと湿度は今も覚えています。自衛隊の補給活動は当時、「無料のガソリンスタンドだ」といった批判を日本国内で受けましたが、アフガニスタンに武器や麻薬などが海路で持ち込まれることを防ぐ重要な役割を担ったと考えています。このオペレーションはフジャイラの協力がなければ成り立たないものでしたので、UAEには深く感謝をしています。
永杉: 友好議員連盟の会長に就任されたのは、どのような経緯だったのでしょう。
石破: 私の前は小池百合子さんが会長だったのですが、2016年に東京都知事になったため退任されることになりました。そこで、私に声がかかったという経緯です。防衛庁長官として訪問して以降、UAEとはつながりを継続していましたので、会長職をお受けすることにしたのです。
日本とUAEの関係は良好だが欧米に比べると足りない
永杉: 会長就任以降、駐日UAE大使とともに地元の鳥取を訪れるなど、両国の交流に尽力されています。現状の二国間関係や経済交流について、どのように見ていますか。
石破: 安全保障の面やエネルギー分野で日本とUAEは概ねウィンウィンの関係を築けていると思います。しかし、欧米諸国とUAEの深い関係を見ていると、日本は遅れをとっていると言わざるを得ません。例えばフランスは、アブダビにルーブル美術館の別館「ルーブル・アブダビ」をオープンさせました。開館にともないUAEはルーブル美術館に2千億円近く支払ったという話も聞いていますから、非常に大きなビジネスと言えるでしょう。
他にも、ニューヨーク市立大学や、フランスのソルボンヌ大学がUAEに進出するなど、教育ビジネスも好調に推移しているようです。また、日本は真似できませんが、欧米は軍事産業でもUAEと密接な関係を構築。UAE空軍はアメリカのF-16やフランスのミラージュを導入していますし、陸軍ではフランスの戦車ルクレールが使われています。このように欧米諸国はエネルギービジネス以外の分野でも、UAEと深く関わっているのです。
永杉: 近々、アブダビにチームラボが「チームラボ・フェノメナ・アブダビ」のオープンを予定しているほか、和食やアニメ関連分野などのビジネスはUAEでも認知され始めているようです。しかし、ご指摘の通り、欧米と比較してしまうと日系企業の存在感はまだまだ小さいと感じることが多くあります。今後、日系企業がUAEに進出する際、どのような産業に未来があると思いますか。
日本に期待するのは世界屈指のポテンシャルを有する一次産業
石破: さまざまなジャンルにおいて進出の余地はあると思います。日本の高品質な繊維製品にも注目が集まっているようですし、王族が日本の伝統工芸品を高額で買い求めたという話も耳にしました。そんな中で、私がもっとも期待しているのは、一次産業です。日本の農林水産業には、世界屈指のポテンシャルがあります。例えば、豊かな農業には「土・光・水・温度」が必要ですが、世界にはこの4条件を具備している国は多くありません。ところが日本にはこれがすべて揃っていて、農業技術も極めて高い。
林業に目を向ければ、日本は国土に占める森林面積の割合が他国に比べて大きく、先進国ではフィンランドに次ぐ2位の広さを有しています。そして漁業に関しても日本は非常に恵まれています。日本の排他的経済水域は世界第6位なのですが、日本周辺の海は深いので漁場となる海水の体積で考えると、日本は世界第2位になるそうです。
一方、UAEの場合、農業をするためには気候が厳しい。林業も水産業も発達しているとは言い難いでしょう。こうした国には、日本の高品質な作物や製品がもっと広く受け入れられるはずです。また、モノを売るだけではなく、日本の農林水産業が培ってきたノウハウやテクノロジーをUAEに広めるビジネスも必要とされるかもしれません。
永杉: これからUAEに進出を考えている企業へのメッセージをお願いします。
石破: 世界史の転換点と言える時代に我々は生きています。長らく続いてきたアメリカの覇権が相対的に低下しつつあるのは間違いないでしょう。今起こっているガザ地区の問題もアメリカの影響力低下が背景にあるはずです。日本としては日米安保は大事にしつつも、これまでのようにアメリカに頼り切るという姿勢からは脱却しなければなりません。そうすると重要になるのが、日本と中東の関係、とりわけUAEとの関係を強化することが必要になると私は考えています。両国の関係強化は日本の国益にかなうことだと念頭に置いた上で、ビジネスしていただけるとありがたく思います。
永杉: 中東の中でも政治的に安定しているUAEにおいて、日本の影響力を高めることが大切という考えは私も同感です。今後、多くの日系企業がUAEに目を向けるよう我々もアピールしていきますので、国や友好議員連盟の皆さんにはぜひともバックアップをお願いしたいと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました。
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