【特集 後編】中東最大手の日本食材卸企業・代表インタビュー、紛争から1ヵ月のドバイの街並み

2月28日の開戦に伴うホルムズ海峡の封鎖により、中東への物流網は未曾有の危機に直面している。日本からの海上輸送が途絶え、駐在員の退避が進む中、UAEの日本食材はどうなっているのか。現地で48年以上にわたり流通を担ってきたサミットトレーディングの大久保史朗代表に直撃した。

断たれた海路、模索する代替ルート
Q.情勢が本格的に緊迫化した時点で、サミットとして最初に取った行動は何でしたか?
A.2月28日の開戦直後、我々はまずお客様・関係者に対して、3つのメッセージを出しました。第一に「十分なストックがあります」、第二に「便乗値上げはしません」、第三に「デリバリーは配送時のリスクがあるため、通常通りにはいかない場合があります」という案内です。このポリシーは現在(3月17日時点)まで変わっていません。

Q.ホルムズ海峡封鎖により、日本からUAEへの海上輸送ルートは現在どうなっていますか?
A.3月17日時点で、ホルムズ海峡を通ってジュベル・アリ港に入港できない状況が続いています。カタール・ドーハ港も同様です。つまり、日本からのコンテナは一つも入ってきていません。発注済みで船に積んでいる荷物を載せた船が相当数、海上で止まったり、寄港地や出向地に戻って降ろされたりしている状態。代替ルートとして活用したいのが、シャルジャの飛び地であるコール・ファッカン港です。こちらはホルムズ海峡を通らずに入港できます。ただし、コール・ファッカン港はジュベル・アリと比べては規模が小さく、UAEやカタール、サウジ向けの荷物も集中しているため、キャパオーバーの状態です。そのため、ジェッダ(サウジアラビア)やソハール港サラーラ港(オマーン)の利用も検討しています。
Q.空輸についてはどうでしょうか?
A.生鮮品の空輸を再開しました。ただし、量はラマダン中でもあり平常時から減っています。これ以上の空域封鎖がなければ、生鮮品は引き続き届けられます。
備蓄と価格 ― 3ヵ月のカウントダウン

Q.現時点で入手困難になっている品目、あるいは完全に途絶えた品目はありますか?
A.我々のストックを計算すると、売れ筋商品でも2〜3ヵ月分の備蓄があります。お米も含めて大丈夫です。日系に限らず多くの駐在員が退避されたこと、観光客が減ったこと、ラマダン期であることから、需要自体が落ちてきているので、その分消費量も限られています。ただし、これ以上、海上コンテナが入ってこなければ、中期的には枯渇します。3ヵ月が一つのポイントと見ています。

Q.在庫戦略は変わりましたか?
A.FIFO(先入れ先出し)を徹底しています。以前はお客様のニーズやメニュー特性に応じて柔軟に対応もしていたのですが、今はとにかく賞味期限管理を最優先しています。廃棄損を最小限に抑えることが重要です。
Q.観光客も激減する中、現状お客様のニーズに対応できていますか?
A.現時点ではすべてのニーズにお応えしています。「この食材はありません」ということも起きていません。開戦直後の状況を振り返ると、最初の1週間はホテルにもたくさんの観光客がいましたので、日本食材の売上は伸びました。また、我々のように大量の備蓄を持つ大手は他にないので、バーレーンやクウェートなど近隣国からの引き合いが増えています。ただし、観光客もいなくなっている中で、今後は徐々に減少していくと思われます。
Q.物流コストの上昇は、最終的な価格にどう反映されますか?
A.手元にある在庫に関しては値上げしません。ただし、今後入ってくるものは、リスクチャージとコンテナ費用の増加分を転嫁せざるを得ません。船の保険もフォース・マジュール(不可抗力)扱いになるため、輸送コストは倍程度になる可能性があります。ただし、正確な上げ幅は現時点では言えません。なお、UAE国内の食料品全般でいえば、野菜などはすでに値上がりしています。

Q.UAE国内の日本食レストランの閉店や営業縮小の動きはありますか?
A.これを機に撤退するお店もあります。ちょうど店舗の更新時期やライセンス更新のタイミングと重なったケースでしょうね。この状態が2ヵ月続いて夏に突入すれば、さらに観光客は来なくなる。6ヵ月間のキャッシュフローを耐えられる企業がどれだけあるかという問題です。コロナの時は人がいたので、スーパーの売上は爆発的に伸びましたが、今回は人がいないのが根本的に違います。ただし、家賃は下がり始めています。落ち着いた時が進出のチャンスかもしれません。
Q.日本食に限らず、UAE全体の食料状況について、どう見ていますか?
A.UAEの食料自給率は10%前後と言われています。国内で比較的安定的に供給可能なのは、乳製品、肉類、一部野菜、そして近海魚です。これらは国内生産基盤があるため、一定期間は供給が可能です。冷凍肉・冷凍魚は相当な備蓄があると思われ、半年〜1年スパンでなければ保つでしょう。我々も開戦日(2月28日)に一定量の冷凍肉・冷凍魚などを確保しました。重要なポイントは、コロナと違い、人口が大幅に減っていること。ショッピングモールのスーパーを見ても人がいない。消費も減っているので、しばらく食料に困ることはないと思います。
48年の矜持 ― 有事の供給責任

Q.ウェブストアでの個人向け販売について、購入時に注意すべきことはありますか?
A.明らかな買い占めと思われる注文はお断りする場合があります。皆さんに行き渡るよう、こちらでコントロールできることはしたい。ただ、国外退避する方が増えている中で、需要自体は減っていくと思います。
Q.日本以外の調達先を新たに開拓する動きはありますか?
A.我々は東南アジアに強いので、東南アジアからの調達がメインになります。買い入れ先は多様化する必要が出てくるかもしれません。ただ、欧州経由であっても、結局ホルムズ海峡を通らなければならないので、どこから買うかよりも「届くこと」が最も重要です。バンコクなどには日本食材が豊富にあるので、飛行機での輸入も考えています。

Q.48年以上のUAE事業経験の中で、過去の危機から今回に活かせている教訓はありますか?
A.いち早く代替ルートを探して供給を維持すること。在庫を厚めに持っていたことが幸いしました。そして、最も大事なのは、我々は社会インフラ企業であるという自覚です。日系に限らず、日本食レストラン、ウェブストアの個人のお客様、石油開発会社のケータリング、観光産業――こうした方々の操業や生活を支えています。有事にこそ供給責任がある。それが我が社の使命だと思っています。
Q.中長期的に日本食のUAEでの供給体制はどう変わっていくとお考えですか? 和食の親善大使として、日本側に求めたいことはありますか?
A.外的環境の変化として、この危機の最中にスルタン・アル・ジャーベル産業・先端技術大臣が訪日し、日UAE間の経済連携協定(EPA)が発効しました。関税の撤廃や各種検査の緩和が進みますので、これはチャンスでもあります。我々は民間企業ではありますが、日本とUAE、日本と中東をソフトパワーとしての「食」と「食材」でつなぐ役割を担っています。EPAに加えて、この戦時下の中東に日本食を輸出するための補助政策をつけていただきたい。我々は可能な限り、物流とディストリビューションとケータリング・レストラン宅配事業を守り続けます。「日本食は逃げない」、「日本の会社は逃げない」。こうした姿勢が大事です。我々が拠点を持つすべてのエリアで食料供給という生活インフラの責任を果たしていきたいと考えています。
開戦から1ヵ月、ドバイの街のいま

2月28日から約1ヵ月が過ぎ、ドバイの街は明らかに変わった。ラマダンに重なる形で訪れた戦争、ミサイルやドローン迎撃の破片、そして3月末の長雨。とっくに観光客は姿を消し、在住者すら外出を控えていた。かつての喧騒はないが、日常生活そのものは維持され、残った人々の暮らしは回っている。では、いま街はどうなっているのか。主要なスポットを実際に歩いて確かめた。
Dubai Mall Area
平時であれば、行列の途切れないブルジュハリファのチケット売り場も閑散としていた。また、ドバイモール周辺道路やファウンテン近くにも人影は少ない。



DIFC
午後2時頃であれば、スーツを着たビジネスマンで賑わうDIFCもご覧の通り。一方で、テナントはほとんどがオープンしていた。


Kite Beach
在住者が日常的に集うこのビーチは、観光スポットとは対照的に人の姿がある。ハイシーズンの賑わいには遠いが、夕暮れのボードウォークを歩く家族連れや、バージュ・アル・アラブを背にくつろぐ人々の姿に、この街にまだ日常が残っていることを感じる。


Palm Jumeirah
観光客で最も賑わうエリアのひとつだが、ジュメイラモール周辺の人出はまばらで、ヤシ並木のプロムナードを歩くのは犬の散歩をする在住者くらい。ビーチ沿いのレストランにも空席が目立ち、客足の厳しさがうかがえる。


JBR
ドバイ屈指の観光ナイトスポットだが、ホテルやレストランのネオンが灯る夜の通りに人影はほとんどなく、かつてない静けさだった。

Deira & Gold Souk
在住者が多く暮らすこのエリアは、通りにも公園にも人の姿があり、日常の風景がそのまま残っている。一方、観光客の定番だったゴールドスークは閑散としており、店員が手持ち無沙汰にベンチに腰を下ろす姿が目立った。


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