ドバイに残る者の解像度——DAFZ、停戦下の現場から<編集部コラム>

ドバイ空港フリーゾーン(DAFZ)に事務所を構えるタカラベルモント・ドバイ駐在員事務所の堀口氏。2026年2月に始まった軍事衝突を受け、日系企業の多くがUAEから一時退避するなか、同氏は当地に留まり続けている。4月15日、オフィスに出社した堀口氏に話を聞いた(Gates Dubai編集長・武田/取材内容は4月15日時点でのもの)。

食堂は「いつもの1割程度」——日本人はほぼ見かけない

4月15日昼、DAFZ内の共用食堂に足を運んだ堀口氏は、そこに見慣れた光景がないことに気付いた。「日本人に限らず、正直いつもの1割程度しか人がいなかったです」。日本人駐在員に至っては、普段なら昼12時台に食堂を埋めるのが常だったが、この日は「ゼロ」だった。堀口氏自身、2月末の有事勃発以降、DAFZのオフィスに出社したのはこの日が初めてだった。ショールームとして歯科用チェアを常設しており、現地代理店が歯科医師を連れて来る商談の場として機能させていたが、有事以降はその活動も一切できていなかった。停戦合意を受け、「そろそろ稼働させよう」と出社を再開したタイミングだった。
DAFZ当局からの「リモート推奨」アナウンス

DAFZ運営会社は有事発生後、入居企業に対して早々に「オフィスに来ないでください」とアナウンスを発出していた。その後もリモートワーク推奨のメールが週次で配信されていたという。しかし、4月13日以降、このアナウンスメールは届いていない。堀口氏が出社再開を判断した根拠は、このアナウンスが届かなくなったことにあった。
一方で、DAFZのメインゲートのセキュリティチェックは目に見えて強化されているという。「通関証を見せないと通れない場所があるんですが、以前は一人ずつしかいなかったスタッフが、今は2〜3人ずつ配置されています」。警戒態勢を敷きつつ、フリーゾーン運営そのものは粛々と継続されている——それが当地の実情である。
エジプト出張で見た光景——閑散とした国際空港

同社の出張ポリシーは、UAEが危険度レベル3に指定されている間、湾岸諸国への渡航は原則禁止。しかし、エジプトはアフリカとの位置付けから、堀口氏は本社の許可を得てカイロ出張を敢行。現時点で予定できている出張は、このエジプトと、5月のモロッコのみ。
ドバイ国際空港のチェックインカウンターは「閑散」の一語に尽きる状況だった。出国手続きはスムーズに進み、搭乗ゲートまでは頼んでもいないのに空港スタッフがカートを手配してくれた。ラウンジにいた乗客はわずか3人だったが、機内は意外にも6割ほど埋まっていた。また、飛行時間はイスラエル上空の迂回ルートを取った影響とみられ、通常3時間半のところが、1時間ほど余分にかかったという。
カイロの計画停電とエジプトポンドの急落
カイロ側では、ミサイルが飛び交うわけではないものの、エネルギー供給への影響が市民生活に及んでいた。夜9時以降は計画停電が実施され、街灯も、レストランも、カフェも一斉に照明が落ちる。「ちょうど8時頃に食事をしていたら、9時に電気が消されましたね」。ホテルだけは例外扱いで停電の対象外となっていたが、娯楽・外食・カフェといった「余分なエンターテインメント」は軒並み消灯対象となっていた。
ビジネス面ではエジプトも無傷ではない。紛争の影響でエジプトポンドが急落。現地代理店に商材を卸した際、代理店側が「ドル建てで計算すると厳しい」と申し入れてくる状況が発生している。もともと強くはなかった現地通貨が、さらに加速度的に価値を失ってしまった。
代理店への「肌感」とワッツアップ——残ることの存在価値

日本本社からドバイを見ている場合と、ドバイで代理店と直接話している場合とでは、情報の解像度が決定的に異なる。「代理店は普段通り出社して動いているので、問い合わせは電話、メール、WhatsAppで日々オンタイムで入ってきます。そこに対応できるというのは、残っていて良かったと感じる部分ですね」と堀口氏は語る。
そして、もう一つは「肌感」の問題。「日本にいてショッキングな映像ばかり見ていると、ドバイは危ない場所だと思ってしまいます。でも正直、大丈夫じゃないですか。これは残っている人しかわからない感覚だと思いますが、普通に暮らせますので」。実際、日本に戻った知人の駐在員たちからは「食料は大丈夫か?」「ティッシュは足りている?」といった問い合わせが堀口氏のもとに寄せられているという。現地にいる者だからこそ届けられる情報と安心感——それは対代理店関係のみならず、日系コミュニティ内部でも機能している。
停戦合意の脆さと希望的観測

2026年4月に成立した停戦合意は、現時点では概ね維持されているものの、期限が延長される形で続いており、「また何かあれば簡単に崩れ得る」という不安定さを内包している。堀口氏の実像は、「残留組の日系ビジネスパーソン」という一語で括れるものではない。本社からの指示を理解しつつ、家族の安全を最優先し、一人の事業責任者として代理店との絆を結び直しながら、先の見えない状況に日々対峙している。そうした複層性こそが、彼が当地に「残っている」ことの内実である。




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