海外在住者のための「2026税制サバイバルガイド」。改正CRS・CARFほか会計士が解説

「ドバイには相続税がない」「換金しなければ把握されない」――そう信じる人ほど、2026年の改正は他人事ではない。暗号資産の捕捉網、親子双方に10年を課す相続税、移住せずとも及ぶ出国税。海外在住者が押さえるべき7つの変更点を解説し、現地在住の会計士インタビューで「どう備えるか」に踏み込む。
何が変わったのか ― 6つのポイント
国を出れば税からも出られる――その常識が2026年に終わった。口座や暗号資産の捕捉から相続税、出国税まで、別々に見える改正が、すべて海外在住者の資産に向かっている。まず押さえるべき6つのポイントを整理した。
改正CRS・CARF本格稼働
2026年1月から改正CRSとCARFが施行。報告事項が拡充され、電子マネーや暗号資産も捕捉対象に。暗号資産同士の交換や自己ウォレットへの送金も報告され、「換金しなければ把握されない」はもはや通用しない。届出書の提出も必須。
相続税の「10年ルール」
国外財産への相続税回避には親子双方の10年超の海外居住が必要で、片方でも日本在住なら全世界財産に課税される。国内に残した不動産・株式等は例外なく課税。10年は実質判定で、生活の本拠が日本と認定されれば否認される。
出国税は本人移住でなくとも
有価証券等1億円以上で出国前10年内に5年超居住した者が国外転出すると、含み益に課税される。本人の移住に限らず、海外居住の子への贈与や相続による承継でも適用。非上場株は納税資金繰りに注意。最長10年の猶予制度あり。
不動産仲介手数料に消費税
2026年10月以降、非居住者への国内不動産の売買・賃貸の仲介は輸出免税の対象外となり消費税10%が課税される。免税を維持する経過措置の契約期限(2026年3月31日)は既に経過。今後の取引は10%上乗せ前提で利回りを計算すべき。
ミニマム課税の強化と売却時期
超高所得への追加課税で、特別控除が3.3億円から1.65億円へ半減、税率は22.5%から30%へ引上げ。適用は2027年分から。M&Aや大型不動産売却で数億円規模の所得が出る場合、実行年が2026年か2027年以降かで税負担が大きく変わる。
海外法人清算のCFC特例
CFC税制に「解散特例」が創設され、2026年4月以降に開始する事業年度から適用。実体ある海外法人が清算過程で形式的にペーパー・カンパニー基準に抵触し全額合算される不合理を、最長3年の猶予で解消。不要法人の統廃合を進めやすくなる。
「ドバイは無税」はもう古い? 移住前に知るべき日本の税金を会計士に聞く
「ドバイに住めば日本の税金とは無縁」――いまだ根強いこの認識は、どこまで正しく、どこから誤解なのか。暗号資産版CRSとも言える「CARF」の施行、超富裕層課税の強化、出国税、住民票と非居住者判定、そして移住のタイミング設計。海外移住をめぐる制度が一気に動くなか、実務の最前線に立つ会計士・岡本氏に、ドバイ移住を考える個人が知っておくべき日本の税金の注意点と落とし穴を、率直に語ってもらった。

Alwasiq Management Consultants ジャパンデスク/公認会計士(CPA)。大手監査法人(EY)で5年間勤務後に独立し、東京都港区で税理士法人を開業。現在はドバイの日系企業向けに会計・税務サービスを提供している。Alwasiq Management Consultants は、ドバイのビジネスベイにオフィスをかまえる会計事務所。ジャパンデスクを有し、100社を超える日系企業の税務アドバイザリーを行っている。Email:shingo@alwasiq.net Web:https://alwasiq.net/jp/
全体像 ―― 2026年は本当に「転換点」か

―― 2026年は海外居住の日本人にとって制度の転換点と言われています。実務で最もインパクトが大きいと感じる改正はどれでしょうか。個人・法人を問わずお願いします。
岡本 大きな流れで見ると重要な動きがいくつかあります。まず、暗号資産版のCRSとも言える「CARF」が2026年から始まりました。そして来年度の改正では、いわゆる富裕層に対する課税が強化されます。元々、日本で一気に資産を作ろうとすると、自分が作った会社を上場(IPO)させたりM&Aで売却したりして、株価を上げてから売る、という方法を考えるのが普通です。来年度の改正は、ざっくり言うと、そこが封じられた、という性質のものです。
―― いわゆる超富裕層課税ですね。年間の合計所得がおおむね3.3億円を超える層が対象、というものですよね。
岡本 おっしゃる通りです。これが来年4月の改正で、基準が3.3億円から1.65億円に下がります。税率も、もともと22.5%だったものが30%に上がります。加えて、タックスヘイブン対策税制(CFC税制)は「海外法人を使って税金を安くするのは許しません」というもの。トータルで見ると、一気に稼ぐことも、稼いだお金を海外で軽課税にすることも、両方ふさがれてきている、という状況です。
―― IPOで数十億円を得て、国外に出てしまう人も多い。日本でちゃんと会社を育てたなら、日本で事業を続けてほしい、という発想は理解できます。
岡本 それはすごく思います。一方で「どこでも働けるようになった」というのは時代の転換点でもある。AIが出てきて、自分の裁量で働ける人は本当に場所を選ばなくなった。私自身、比較的場所にこだわりがないほうですし、通話一つとってもドバイからできる。そうなると、あえて日本に固執する理由もそれほどない、というのも事実です。
相談内容の変化 ―― AIが変えた「質問の質」

―― ドバイ在住の日本人からの相談内容、ファイナンスや税制まわりで、ここ1〜2年でどう変わってきていますか。
岡本 やっぱりAIは切り離せないですね。質問の質が明らかに上がったと感じます。2〜3年前なら「ドバイに行ったら無税なんですよね?」「住民票を抜けば非居住者ですよね?」といった、ざっくりした問いが多かった。最近は「タックスヘイブン対策税制があって、管理支配基準はこう書いてあって、ChatGPTはこう言っている。実際、自分の会社の場合はどうですか?」というところまで調べた上で聞いてこられます。
―― ある程度状況を認識した上で相談してくれるので、調べる手間も省ける。質問の質が上がっている、と。
岡本 そうですね。ただ、ChatGPTが必ずしも正しいことを言っていないケースも結構あります。的外れになることもあるし、逆にAIはかなりコンサバ(保守的)に振れる傾向もあります。
―― いまだに「ペーパーカンパニーで大丈夫」だと思っている人はいますか。
岡本 そこはわりと減ってきた印象です。「ペーパーカンパニーでできますか?」という質問には、AIも明確にノーと言う。ただ、AIは「(こういう)前提条件の上では可能です」という言い方もする。その前提条件が明らかに成立しない、と突っ込むと「ご指摘の通りです」と前言を翻す。結局、実質的に間違ったことを言っている、と感じることはありますね。
住民票と非居住者判定 ―― 「抜かなくてもOK」は本当か

―― 「住居を持たなくてもいいんですか?」という質問もありますか。
岡本 そこも正直、難しいんです。「住民票を残したまま非居住者になれますか?」と聞かれると、結構困ります。これは税理士の中でも見解が割れていて、「住民票を抜かなくてもOK」と言う税理士を連れて私のところに来る人もいます。私自身は基本的に『NG派』です。
―― そこをもう少し詳しく教えてください。
岡本 日本は183日ルール(183日滞在すれば居住者判定)はないし、住民票だけで判断されるわけでもない。ただ、そもそも住民票が日本にある時点で、「実態は海外だ」という反証をこちらが出さなければいけなくなる。さらに、所得税法上の居住性とは別に、住民税の有無は基本的に住民票の有無で判断されます。つまり所得税と住民税で考え方が違う。「住民税は払うのに、なぜ所得税は払わないのですか? その理由は?」と問われたとき、合理的に説明できますか、という話になるんです。私がもし顧問に入るなら「ドバイに移住するなら、住民票は絶対に抜いてください」と言います。
マイナンバー ―― 任意なら、急いで取る必要はあるか
―― マイナンバーカードの申請がオンライン化されました。ドバイ在住者がまずやるべきことは何でしょうか。ただ、これはそもそもマスト(義務)ではないんですよね。
岡本 そうですね、任意です。マストではありません。
―― 任意なら取る必要はないのでは、とも思ってしまいます。岡本さんのご意見はいかがですか。
岡本 私も同感です。令和3年か5年頃までは、そもそも海外移住するときにマイナンバーカードは使えなくなる前提で、非居住者は作れなかったわけです。それが作れるようになったということは、何かしら身分証明として必要が出てきたのだろうと推測します。非居住者でも、日本国内に源泉所得があれば申告は必要なので、その際に使うのかな、とか。
住民票と日本の銀行口座 ―― 「使えるうちは使う」の現実

―― 住民票を抜いたまま、届け出ずに日本の銀行口座を使い続けている人は多いと思います。実際のリスクと、今からやるべき正しい手順を教えてください。
岡本 一度日本を出てしまうと、なかなか難しいですよね。出国前であれば、非居住者用の口座を作るという手があります。SMBC信託銀行プレスティアなどが有名かと思います。為替やドルへの換金が比較的安いということで開設している人がいるようです。ただ、これは一度海外に出てしまうと作れなかったはずです。
―― 本来、住民票を抜いたまま日本の口座を使い続けるのはNGのはずですよね。
岡本 おっしゃる通りです。これは私の認識が正しいのか、という前提つきですが、自分から「住所を変えます」と銀行に申し出ると、マイナンバーカードなどの提出を求められます。一方で、「あなたは本当にまだここに住んでいますか?」という確認に対して「変更ありません」とチェックを入れれば、それで通ってしまう銀行も多い。もちろん将来も同じ運用とは限りません。
―― UAEの銀行などから日本の口座に送金されている人は多いと感じています。
岡本 そうですね。ただ、海外送金は、一回100万円を超えると、すべて『国外送金等調書』という形で税務署に通知が入っているはずです。
―― それは累計ではなく、一回の送金で100万円、ということですか。
岡本 そうです。逆に言うと、WiseやRevolutは、一回の送金が100万円以下でないと送れないようになっています。これは、銀行に対する調書の提出を避けるための設計だと思われます。さらに言うと、一回の送金で3000万円を超えると、財務大臣への報告が必要になったはずです。
―― 日系企業がこちらの銀行に3000万円を送る、というのは普通にありそうですが。
岡本 上場会社や支店・駐在事務所は問題ないんです。コンプライアンスを重視してきちんとやるところが多い。要注意なのは、クリプト系のお金の動きや、上場していないけれど、100%オーナーのような方で、『いけるだろう』という発想になりがちです。
―― 日本にいながらの不具合、面倒なことは、現状では起きていないですか。
岡本 最近は戦争(イラン情勢)の影響で一時帰国している人が多くて、その際に『携帯が使えない』『銀行にログインできない』という相談が増えました。
―― SNS(ショートメッセージ)が届かない、という問題ですか。VPNを使っても不可能なのですか。
岡本 なぜか届かないんです。結論としては、受信側のキャリアを『自動選択』にしないことのようです。日本に来るとよくわからない回線につながってしまうらしく、その結果ショートメールが届かず、銀行にログインできない、という悪循環になる。
―― そうした問い合わせは、こちらの情勢が落ち着いてから減りましたか。
岡本 そうですね。ドバイに戻ってきている人も増えましたね。
改正CRS・CARF ―― 国税庁には何が「見えて」いるか

―― 2026年1月から改正CRSとCARFが施行されました。日本の国税庁には、ドバイ在住者の何が『見えて』いるのでしょうか。
岡本 基本は情報交換なので、双方が見られるわけですが、UAE側からすれば、日本の口座情報を見るメリットはあまりない。UAEには個人の所得税がありませんので。どちらかというと、UAEから日本に情報が送られているケースが多いと言われています。
その上で、口座開設時にTIN(Tax Identification Number=納税者番号)を書いていれば、自動的に情報が渡ってもおかしくない。書かなかったとしても、当局から「この人は脱税の疑いがある」となれば、当然口座情報は交換されます。
―― 実際に、顧客で『UAEの口座情報が日本に送られた』という話を聞いたことはありますか。
岡本 逆説的ですが、私のお客さんにはそういうことをさせないんです。疑いを持たれるようなことをしないために会計士がいる、ということですね。
―― 暗号資産の話に移ります。暗号資産同士の交換や、自分のウォレットへの送金まで報告対象になりました。
岡本 一定金額以上だと、取引所側がかなり踏み込んでいますね。バイナンスなども、最近は「これはどこからの送金ですか?」というアンケートに答えないと入金できないようになっています。もちろん自己申告分以外でも、問い合わせがあれば把握される。CARFという枠組みに入っている以上、たとえば日本で税金を避けるために一度ウォレットに入れ、その後ドバイ側に移して『含み益がたっぷりあるものをドバイに隠した』という情報は、当然日本の税務当局が把握することになります。
―― クリプト長者は今のうちに移住を、という動きもありますか。
岡本 出国税の対象になる前に移住するのは、現状違法ではありません。実際その動きはありました。特にCARFが始まる前に移った人は結構いましたね。
―― 金融機関から届く『セルフ・サーティフィケーション(居住地国の届出書)』を放置するとどうなりますか。そもそも、こういうものが届くんですね。
岡本 何年かに一度、「この住所で合っていますか?」という確認が来ます。あくまで自己申告で、それを証明する運転免許証などの提出までは求められていません。放置すると、口座が凍結される可能性はありますね。『日本にいるかどうか』を、要は宣言しないままになるので。
生活の本拠の認定 ―― 税務調査で見られるポイント

―― 一時帰国の頻度や、日本に残した持ち家は、『生活の本拠』の認定にどこまで影響しますか。税務調査で実際に見られるポイントは。
岡本 『どこまでか』を線引きするのは難しいんです。結局ゼロか100かの話ではない。借りている住所、その契約、家族や子どもが通っている学校がどうか――そうした『日本との結びつきを示す要素』を、できるだけ減らしていくしかない。要素が少なければ少ないほどいい、という話です。
―― 評価軸がいくつもあって、その『点数』が高いほど、ブラックと見られる。要素が小さければ、厳しく見られにくくなる、と。
岡本 そうです。武富士事件(消費者金融大手・武富士の創業者一族が、海外移住と海外法人を利用し、約1,300億円もの贈与税を免れようとした巨額の租税回避事件)でも、住居・職業・家族といったものが例示されましたが、『どれがどう効くか』が判例で明確になっている事例は、そんなに多くないです。そのため、極力そうした要素を減らしていくほかない、という感じです。
―― 結構昔の事件ですよね。
岡本 2011年です。そして、結局納税者勝訴なんです。悪質ではないと判断されたわけですね。
出国税 ―― 「1億円」はどの時点・どの資産で判定されるか

―― これからドバイ移住を検討している経営者にとって、出国税の『1億円』は、どの時点の、どの資産で判定されますか。自社株の評価で驚かれるケースは多いですか。
岡本 私のところに相談に来るのは、ほぼオーナー社長が多い。『株を100%持っています、会社にお金も結構あります』と。最初は資本金100万円くらいで作っていて、そんなに資産が貯まると思っていなかったのに、気づけば会社の財産が2億・3億になっている。そうすると、その会社の株価も2億・3億になっているわけです。
―― 含み益はどう見るのですか。
岡本 評価方法で株価が変わることが前提ですが、基本的には純資産で判断するケースが多いです。たとえば3億円から、当初入れた資本金100万円を引いた2億9900万円が含み益になり、それに対しておよそ15%程度の課税がされる。大きいですよね。そこで、出国税を払わないために『猶予申請』という制度があります。ただ、猶予申請にも担保の差し入れが必要で、株や土地などを税務署に担保すれば、5年間(延長で最大10年)までは猶予が受けられます。
―― 誰がこの資産評価を判定するのでしょうか。
岡本 いわゆるM&Aの株価と、出国税の株価は性質が違います。M&Aの株価は、将来の収益性を加味して『いくらで売れるか』という話。一方、税金を納める上での株価は、『慎重に見て、どのくらいの価値があり、どのくらい課税できるか』という担税力の話です。例えば純資産価額方式という方法では株の将来価値はほぼ見ません。預金や資産を見て、資産から負債を引いていくらになるか、という純資産ベースのシンプルな考え方です。
確定申告は、基本的にすべて申告納税方式です。自分で『株はいくら』と申告する。もちろん間違っていれば税務調査が来ます。ただ、純資産の計算は誰がやってもほぼ間違いようがない。資産も負債も明確ですから。そこで間違っていれば、当然否認されます。
―― 移住のどのタイミングで終わらせておくものなのでしょうか。
岡本 原則として、出国時点までに終わらせておかなければいけません。プランを立てる場合は、出国前に必ず株価を算定し、出国税を確定させてから出国する、ということになります。私もサポートしていますが、今はドバイ側が忙しくなってしまって、日本側の国際税務に強い税理士さんと提携してやっている形です。
―― やらないまま海外に行ったら、どこかで見つかる、と。
岡本 調べればわかります。代表者の住所は登記事項なので、移住すればすぐに判明します。
移住タイミングの設計 ―― 「1億円の壁」だけではない

―― 『資産1億円に達する前に移住すべき』という議論があります。実際のところ、移住タイミングはどう設計すべきでしょうか。
岡本 税金のことだけ考えれば、その通りです。私も『株価が1億円超にならないように』とアドバイスすることがあります。例えば 評価額が1億円を超えそうでも、役員報酬を出して利益剰余金を減らす、あるいは節税商品を使って出国税の評価額を下げる、といった対策はあり得ます。
―― 日本で事業がうまくいって、中長期的には海外移住したい人にとっては、『1億円になる前に』というのは難しい問題になりそうです。
岡本 そうですね。もう少し踏み込むと、仮に1億円の壁をクリアできたとしても、自分が25%以上株を持っている場合は、日本で課税されるんです。『事業譲渡類似株式』という概念があり、1億円で出国できたとしても、25%以上保有している株については、売却時に課税されます。
―― そうしたケースもあるのですね。
岡本 そのため1億円から下げればOK、というわけではなく、その『事業譲渡類似』の論点も対策しなければいけない。この事業譲渡類似株式への課税がないのが、香港なのです。事業譲渡類似株式への課税がないのは、香港やアメリカなど限られた国しかない。アメリカは州税・連邦税がかかりますが、香港はキャピタルゲイン課税がなく、ゼロです。最近は、知っている人ほど香港の相談が多い、という状況です。



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