ホルムズ海峡封鎖、ドバイの食料物流はどう動いているのか?サミット代表インタビュー<編集部コラム>

イラン情勢の緊迫から約3ヵ月。ホルムズ海峡はいまだ正常化していないが、現場の物流はすでに「一部迂回・一部再開」のフェーズへと動き出している。中東最大手の日本食材卸、サミット・トレーディング代表の大久保史朗氏に、海上輸送の最新事情、UAE政府による物流支援の実態、そして5月13日の外務省発表を受けたアブダビの日系企業の動きまで、現場目線で語ってもらった。なお、本稿は、Gates Dubai 6月号(電子ブック)の特集では誌面の都合上、一部のみの掲載となったが、編集部コラム特別編として、長編フルバージョンでお届けする(Gates Dubai編集長・武田)

ホルムズ情勢下の物流。「一部迂回・一部再開・一部混乱」の継続

Q. 3月17日のインタビューでは「在庫はあと3ヵ月」とおっしゃっていました。あれから約3ヵ月が経過した今、ホルムズの状況をどう見ていますか。
A. 結論から申し上げると、ホルムズ情勢は報道の通り、最悪期と比べれば落ち着きが見え始めています。ただし、食品物流のこれまでの通常感覚から言えば、まったく通常ではありません。
3月の取材時点ではホルムズは完全停止でした。今は「一部迂回、一部再開」という状況。特定の国・船籍に関係する船舶などの一部が通り始めたという意味では「一部再開」ですし、我々の食品コンテナはホルムズを避けたルートで動かしているという意味で「一部迂回」。そして、引き続き全体としては混乱が続いている、というのが実情です。
Q. 「落ち着きを見せている」というのは、ホルムズ海峡そのものが改善したのではなく、企業努力で迂回ルートを確立できてきた、という意味ですか。
A. ホルムズ海峡を避けるルートを、各社が必死に組み直してきたから「落ち着き始めた」ように見えるだけで、海峡自体が正常化したわけではありません。食品コンテナ物流は、やはり元には戻っていません。海運会社はリスクを織り込んで個別に価格を設定しており、運賃も以前お話しした「通常時の10倍」からは一定程度落ち着いてきたものの、会社やルート、タイミングによってばらつきが大きく、現在も通常時の数倍水準となるケースがあります。
Q. 食料はインフラの一つなので、優先順位も高いのではと思っていましたが、そうでもないのでしょうか。
A. もちろん優先されるよう、こちらも交渉します。「これは食品で生活に必要なものだ」という伝え方は当然していますし、ある程度の効果はあると感じます。ただ、船腹(船の積載能力)が限られている中で、どの貨物が優先されるかは、船会社・国籍・港湾・貨物種別など複数の要素で決まっているのは間違いありません。食品だから必ず最優先、衣料品だから後回し、という単純な話ではない──これは私自身、今回の危機で改めて勉強になった点です。
迂回ルートの実際。5港体制とジュベルアリへの集約戦略

Q. 現在、どの港を実際に使っているのですか。
A. ホルムズを避ける場合、コールファッカン(シャルジャ/UAE東岸)、フジャイラ(UAE東岸)、ソハール、サラーラ(ともにオマーン)、ジェッダ(サウジアラビア)──このあたりを実際に使っています。5つの代替港を候補として押さえ、状況に応じて使い分ける体制を整えています。空路も3月上旬からUAE便、4月上旬からカタール便が再開していますし、海路・空路・陸路をすべて使って、需要と在庫を見ながらマネジメントしていくしかありません。
Q. ただ、迂回港を使えばすべて解決、というわけにもいかないですよね。
A. 荷物が集中すれば必ず港湾で混雑が起き、トラック便も不足し、保管料は上がり、ポートハンドリング・チャージも引き上げられて「早く荷を出してくれ」という圧力になる。 今回の難しさは、海上運賃だけでなく、港湾事務手続き、通関、保税管理、食品検査、陸送、倉庫配送までの全工程のコストと時間が、軒並み増加していることです。バリューチェーン全体のコストが膨らんでいます。
Q. フジャイラやコールファッカンの食品検査体制は、ジュベルアリと比べてどうなのでしょうか。
A. 政府および各港が、想像以上に協力してくれていると感じます。通常であれば細かく書類提出を求められ、監査・管理が厳重なところを、今回は必要最低限の運用に絞ってくれている印象です。実例として、コールファッカンで揚げたコンテナを、その港で検査せずにジュベルアリへ送れる仕組みになっている。検査・通関は我々が使い慣れた巨大ハブ港であり、貨物オペレーションも非常に充実しているジュベルアリでやった方が品質も時間もコントロールしやすいからです。
Q. 最終的にジュベルアリに集約するという発想に切り替えた、ということでしょうか。
A. 今、我々はもう「どの港が一番安いか」を考えるのはやめました。「どの港経由なら、品質を守って、時間内に、販売可能な状態でドバイまで届けられるか」──この観点を重視しながら判断しています。コールファッカンやフジャイラで揚げて、そこで長期滞留してしまったら、賞味期限のある食品は終わりです。査察に慣れた人が少ない港で初めての食材商品の通関を組むと、手続きや書類が一からになって時間がかかる。であれば、最初から商品登録実績のあるジュベルアリへ持っていく方が早い。迅速化と品質保証、この2つを最優先したオペレーションに切り替えています。
UAE政府の物流支援──「グリーンコリドール」と鉄道輸送

Q. 政府からの具体的な支援はあるのでしょうか。
A. あります。例えばドバイの主要港湾・物流関係者が、フジャイラやコールファッカンからジュベルアリへの陸送コストについても、有事下でコストが高騰する中、負担を抑えるために努力してくれています。
また、「グリーンコリドール(緑の廊下)」という政府制度があり、通関の簡素化や補助の運用が動いているようです。具体的な制度内容や金額は公表されていませんが、現場で実感できるレベルで助けてもらっているのは間違いありません。UAE政府は本当に細かく実利的に動いてくれる。これは我々日系食品事業者として、心から評価し感謝しています。

Q. 送っていただいた写真が、コンテナが二段積みになって鉄道で運ばれているものでした。あれはどういう状況なのでしょうか。
A. 現状を表す象徴的な一枚です。トラックも便も足りない、ホルムズも通れない、ジュベルアリ以外の港から東岸経由で入れるしかない──そうなった時に、フジャイラ側には、エティハドレイルの貨物鉄道ネットワークがあるんですね。従来は石油等の産業貨物輸送路線です。今回、東岸に迂回されたコンテナを、ジュベルアリ側の鉄道ターミナルともつなげて動かす仕組みが本格的に使われ始めています。私自身、エティハドレイル計画はもちろん知っていましたが、実際に一般コンテナ物流の選択肢として機能し始めていることを、今回改めて強く意識しました。
陸送費・燃料費・価格政策──「便乗値上げ」と「必要最小限」の境界線

Q. 陸送コストも当然上がっていますよね。
A. 陸送費は明確に上がっています。代替港を使えば港から倉庫までの距離は当然延びますし、港の混雑で待機時間も増える。トラック1台あたりの稼働率が落ち、車両費・燃料費・ドライバー待機時間がすべて押し上げられる。燃料代も大きい。ガソリンはざっくり1.5倍くらい軽油は倍になっています。経由便を組む場合のトータルコストは、感覚で言えばほぼ倍になっている。これは商品価格にも影響せざるを得ません。
Q. ストレートにうかがいますが、商品価格はどれくらい上がっているのでしょうか。
A. 既存在庫で、かつ既存顧客が継続使用している商品については、現時点まで価格は据え置いています。開戦当初に「商品は十分にある、価格は当面上げない」と発表して、それを3ヵ月守ってきました。
ただし、新規入荷品については、物流上昇分を一定程度反映せざるを得ません。これは、今お話ししてきた事情をご理解いただければと思います。値上げ幅は商品によってばらつきがあります。一定程度の価格改定が必要なものもあれば、比較的小幅な調整で済むものもあります。全体一律に何%上げる、という乱暴な調整はしません。商品ごとに丁寧に判断しています。
Q. コストが30%増えたら最終価格に30%乗せれば相殺できる、というシンプルな話にはならないのですね。
A. そうしたいのは山々ですし、それが一番簡単です。でもそれをやってしまうと、負担をそのままお客様に転嫁することになる。我々はそのやり方を採らない方針でやっています。市場全体では、肉類・野菜・果物も含めて、価格転嫁の動き、ある意味「値上げチャンス」とすら見える動きがあちこちで起きています。ただ、我々としては、その単純な値上げ競争には乗らない。日本食材を使い続けてもらうことを優先する。
理由は単純で、危機だからといってすぐ値上げすると、シェフやレストランは日本食材から離れます。一度、代替食材に切り替わったら、戻すのは本当に大変です。これは目先の売上減少よりはるかに大きなリスクです。言い換えれば、利益率を圧縮してでも供給継続を優先する、ということ。
短期の利益より、中長期で中東における日本食材市場を守ることを選んでいます。「便乗値上げ」なのか「供給継続のための必要最小限の調整」なのか──この線引きは絶対に曖昧にしないと決めています。
Q. 航空運賃の方はどうでしょうか。
A. 空路も当然、運賃は上がっています。ただ、特にエミレーツ航空をはじめ、主要航空会社各社は、なるべく価格を上げないように相当頑張ってくれている。我々は、鮮魚や野菜・果物などの既存定番品については、現時点では価格を上げずに対応しています。現在程度のコスト増であれば、何とか社内で吸収しながら頑張りたいと考えています。これは航空会社側の判断にも、UAEの危機対応の姿勢が反映されていると感じます。

Q. 一部、欠品も発生しているとうかがいました。どのように入荷を判断しているのですか。
A. 欠品はあります。ただ「ある/ない」の単純な話ではなく、商品ごとに優先順位を細かく判断しています。お米、調味料、冷凍品、生鮮品、和牛、マグロ、業務用食材──それぞれ温度帯、賞味期限、代替可能性、顧客需要がまったく違う。 商品ごと、お客様ごと、ルートごと、在庫ごと、入荷予定、品質、価格を、いくつものマトリックスで重ね合わせて判断している、というのが実情です。
Q.日本食材でいえば、マグロのような主力商品は欠品させづらいですよね。
A. はい。ただ「主力」の中身もお客様によって変わるのが難しいところです。家庭で必要なもの、高級レストランで必要なもの、ケータリングの現場で何百食分も必要なもの──それぞれ最適解が違います。さらに今、GCC諸国のお客様から「もう仕入れようがない、助けてください」という相談が増えています。カタール、サウジアラビア、バーレーン、クウェートのパートナー、飲食店・関係者からです。日本食材については、弊社がGCC全体のラストリゾートになりつつあって、守備範囲がどんどん広くなっています。
アブダビの企業動向──5月13日外務省発表と日系企業の再展開

Q. ここからテーマを変えて、アブダビの状況についてお聞きします。5月13日に日本の外務省が「UAEに寄与する事業は日本人の渡航をとめない」という主旨のただし書きを発表しました。これはかなり大きな転換だったように見えます。
A. 非常に大きな発表でした。実は我々もずっとこの瞬間を待っていたんです。大使館等在外公館の方々とも常に連絡を取りながら、地道に活動を続けていました。
Q. このただし書きが出た背景には何があったのでしょうか。
A. 日本のエネルギー安全保障では、特に原油の大部分を中東に依存している現実があります。だからこそ、安全を前提に、中東諸国との協力関係と現地での日本企業の活動を段階的に戻していく必要があります。カタールのラスラファンをはじめ、復旧・再開・拡張に時間を要するエネルギー関連案件では、日系プラント企業の技術や経験が必要とされる場面も多いと見ています。
このタイミングで、赤澤経済産業大臣や山田経済産業副大臣が中東を訪問し、その後、外務省の危険情報に復旧・復興等に寄与する企業・団体への但し書きが示された流れは、日本として中東との関係と必要な経済活動を維持していく意思の表れと受け止めています。
Q. 発表を受けて、実際にアブダビの企業の動きはどう変わってきていますか。
A. まだ「バック・トゥ・ノーマル」とまでは言いませんが、変化は明確に出始めています。これまで所長クラスですら現地にいられなかった企業が、今週・来週、あるいはイード明けに戻ってくる動きが出ています。具体例で言えば、エネルギー関連やインフラ関連の一部企業では、安全を前提に、現地体制を段階的に戻す動きが出始めています。復旧・再開・維持に必要な人員を、各社が慎重に再配置していると見ています。

Q. 街中の体感としては、どのくらい人が戻ってきている感覚ですか。
A. 日系コミュニティの観点で言えば、「これから」というのが正直なところです。これまでゼロだった会社に1人戻ってくる、というレベルの段階。ただ、ドバイがすでに3〜4割の回復感だとすれば、アブダビもこれから2〜3割に向かっていく流れになると思います。今後、数週間〜数ヵ月の動きが重要です。
Q. 最後にメッセージを。
A. 一言でまとめれば、危機は続いています。ホルムズの正常化はしていません。でも、現場は止まっていない。日本食材の流通という観点で言えば、これは単なる輸入ビジネスではなく、中東と日本をつなぐ信頼の線です。危機の時にこそ、その線を切らさないように頑張る──それが我々の役割だと思っています。
幸い、UAEの関係当局、港湾・物流関係者、航空会社をはじめ、多くの関係先がそれぞれの立場で本気で動いて支えてくれている。在留邦人の生活と、日本食レストラン、そしてGCC全域のお客様まで、できる範囲で守り抜く。それが、創業以来、半世紀近くUAE・中東で事業を続けてきた我々の責任です。




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